在職支給停止の基準額とは?

 現在の日本の雇用慣行における定年年齢は60歳となっていることが一般的となっていますが、定年年齢の引き上げや廃止、また、定年が60歳であっても継続雇用を行なうことが一般的となっている等、雇用環境の整備による現役世代の実質65歳移行と合わせ、年金の調整の基準となる基準額も65歳前と以降で異なってきます。

 

 在職支給停止額を算出するにはまず総報酬月額相当額と基本年金月額を考える必要があり、具体的には以下のように考えます。

 

①総報酬月額相当額

 

 標準報酬月額と標準賞与額÷12との合算額を指す。

 

②年金基本月額

 

 特別支給の老齢厚生年金では報酬比例部分と定額部分の合算額の12分の1、老齢厚生年金では報酬比例部分の12の1の額

 

 上記①と②をそれぞれ算出して合算した額が65歳前では28万円を、65歳以降では46万円を超えた場合に在職支給停止の対象となるため、このそれぞれの額を基準額といいます。

  

 この基準額は賃金と物価により自動改定されるもので一定の額とはなっていませんが、65歳前と65歳以降における現在の雇用環境は65歳を境として大きく変動することが通常であるため、基準とされる額についてもそれに合わせて一定額に変更となることになっています。

在職支給停止とは?

 老齢年金の支給開始年齢に到達すると請求により老齢年金を受給することが出来ますが、このとき給与や賞与、報酬を受けている場合は年金額が調整されることがあります。

 

 これを在職支給停止といい、在職支給停止により支給される老齢年金を在職老齢年金といいます。

 

 この在職支給停止がなされる基準は厚生年金被保険者であるかどうかによって決まります。

 

 そのため、厚生年金被保険者ではない場合は給与や賞与、報酬を得ていても在職支給停止の対象とはなりませんので、厚生年金保険適用事業者ではない自営業者や厚生年金保険適用事業所に勤務していても厚生年金被保険者でなければ在職支給停止の対象とはなりません。

  

 また、厚生年金保険被保険者となれるのは70歳が上限でありそれ以上加入することは出来ませんが、70歳以上であっても厚生年金保険適用事業所に勤務する方(70歳以上でなければ厚生年金被保険者となる方)については給与や賞与、報酬に応じて在職支給停止の対象となるため注意する必要があります。

老齢年金の繰上げ請求における男女での違い

 特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は、男女の生年月日により異なることは既に触れた通りですが、このことは老齢年金の繰上げ請求にも影響を及ぼします。

 

 例えば昭和32年4月1日生まれであれば、男性は62歳支給開始ですが、女性は60歳支給開始となります。

 

 上記の場合に男性と女性が60歳で繰上げ請求をした場合は男性と女性では以下のように異なります。

 

 男性であれば支給開始年齢が62歳ですからまだ特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢に到達していませんので、この場合は老齢厚生年金と老齢基礎年金を同時に繰上げ請求する必要があります。

 

 そのため、老齢厚生年金は2年分繰上げるため12%、老齢基礎年金は5年分繰上げるため30%の減額となり、老齢厚生年金と老齢基礎年金共に減額支給となります。

 

※仮にこの男性が62歳で繰上げ請求する場合は、特別支給の老齢厚生年金の支給開始も62歳ですので、3年分繰上げる老齢基礎年金のみが18%の減額となります

 

 これに対し、女性の場合は支給開始年齢が60歳ですので、60歳に繰上げ請求したとしても既に特別支給の老齢厚生年金部分は支給開始となるため老齢厚生年金部分は減額支給とならず、5年分繰上げる老齢基礎年金のみが30%の減額支給となります。

  

 老齢年金の繰上げ請求をする場合は老齢厚生年金と老齢基礎年金を同時に繰上げしなければならず、一方のみを繰上げ受給するということは出来ないため、繰上げ受給を検討する際は男女の受給開始年齢にも注意をする必要があります。

特別支給の老齢厚生年金の男女による支給の違い

 特別支給の老齢厚生年金については、現在65歳への引き上げが段階的に行われておりますが、引き上げによる支給開始年齢は男女によって異なっており、男性より女性の方が5歳繰上げの年齢が遅れており、男性は昭和36年4月1日まで、女性は昭和41年4月1日までの生まれの方について65歳前に支給が開始されることになっており、それ以後の生年月日になると原則通り65歳からの支給となります。

 

 このように特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢が男性と女性で異なるのは、昔の定年年齢が一般的に男性60歳、女性55歳であったということに由来しています。

 

 但し、上記は一般的な民間企業の厚生年金適用事業所における定年年齢であり、共済組合においては当該昔の時期においても男女により定年年齢は異なってはいませんでした。

 

 そのため、共済組合における特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は男女で異なっておらず、男性と女性で特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は変わりません。

  

 つまり、女性の場合は結果的に一般厚年期間については生年月日により男性より先に特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生しますが、共済厚年期間については男性と同様の時期に特別支給の老齢厚生年金が発生しますので、両方の期間を持っている場合には2つ以上の特別支給の老齢厚生年金が異なる時期に発生することになるため、それぞれ別々に請求手続きを行わなければならないこととなります。

厚生年金基金とは②

 厚生年金基金においては、基本的に10年以上同一の基金に加入していたり、基金に加入していたときの退職時の年齢が55歳以上であるとその加入していた基金より年金が支給されます。

 

※10年以上の基金もあります

 

 また、基本的な10年未満でかつ55歳未満の退職者は中途脱退者と呼ばれ、この方の場合は資産が企業年金連合会に移換されているため、企業年金連合会から支給されることになります。

 

※平成26年3月以前の基金の解散の場合も企業年金連合会から支給されます、平成26年4月以降の解散の場合は考え方が代行返上と同様になります

 

 その他、代行返上という考え方があり、これは文字通り代行部分を国に返し、基金はプラスアルファの加算部分のみ支給するというものです。

 

※代行返上した場合でも、プラスアルファの部分がないことはありえますので、必ずしも加算部分があるとは限りません

  

 厚生年金基金制度は制度が複雑で実質的な維持が難しくなっていることもあり、他の企業年金への移換が進められているため、今後は更に縮小していくことになっています。

厚生年金基金とは①

 厚生年金保険独自の制度として厚生年金基金制度がありますが、厚生年金基金とは一言でいえば国の公的年金制度を利用した企業年金制度ということになります。

 

 厚生年金基金の仕組としては、まず、代行部分と呼ばれる本来国から支給されるべき老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)部分について厚生年金基金が預かり、その預かった資産を運用して加算部分と呼ばれるプラスアルファを生み出し、上乗せするための原資を生み出すという仕組みになっています。

 

 つまり、本来国が支払うべき部分を代行部分として厚生年金基金が支払い、加算部分を上乗せして支払うことになっているため、従来の厚生年金被保険者より手厚い給付を受けることが出来るという点で企業年金としての性質を有していることになります。

 

 しかし、厚生年金基金制度が全盛だった頃は、預貯金の金利が非常に高かったためリスクをそれほど負わずに運用成績を上げることも比較的容易でしたが、現在の金利は非常に定額となっており、狙った通りの運用成績を上げることが難しくなってきていること、運用に伴うリスクにより損失が発生した場合には、厚生年金基金は確定給付企業年金の性質を有しているため加入企業で損失を穴埋めしなければならない等の弊害が大きくなってきたため、現在は新たな厚生年金基金の創設が出来なくなっています。

 

 そのため、企業年金の役割を有していた厚生年金基金に代わり、確定拠出年金等の様々な制度が創設されています。

 

 現実的には、年金および企業における一定の退職給付だけでなく、個人における自助努力が大きく求められる時代に変化しているといえます。

老齢厚生年金の繰下げ受給の考え方

 老齢厚生年金も老齢基礎年金同様に年金額を増額して受給することができる繰下げ受給の申し出をすることが出来ます。

 

 老齢年金の繰上げ受給が老齢基礎年金と老齢厚生年金の同時繰上げが必要となるのに対し、老齢厚生年金の繰下げ受給については老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰下げても良いし、一方のみ繰下げをすることも可能です。

 

 但し、共済組合員の期間における厚生年金被保険者期間に基づく老齢厚生年金と一般厚生年金被保険者期間に基づく老齢厚生年金については、共済組合制度と厚生年金制度との違いという理由から以前は別々に繰下げを行なうことも可能でしたが、被用者年金一元化により共済組合期間も厚生年金被保険者期間として統一されていますので、現在はこれらの期間について別々に繰下げを行なうことは出来ません。

 

 また、よく間違いやすいのが特別支給の老齢厚生年金に関してですが、老齢年金の繰下げ受給をすることが出来るのはあくまで65歳以降の老齢基礎年金と老齢厚生年金に関してのみとなります。

 

 特別支給の老齢厚生年金については65歳以降に支給される老齢基礎年金と老齢厚生年金とは別個の経過的な給付という位置付けであり、そもそも特別支給の老齢厚生年金の繰下げという制度が無い以上、特別支給の老齢厚生年金は受給しなければ5年以上の経過で時効にかかってしまい、時効経過部分から消滅してしまうため、受給開始年齢に到達したら速やかな請求が望ましく、例え、請求時点で在職支給停止により全額支給停止となってしまう場合でも、請求する時期が後になればなるほど請求の煩雑さが増したり加給年金の過払い等の問題が生じたり、困難案件となる可能性が高くなるため速やかな請求が望ましいといえます。

 

 その他の注意点としては、老齢基礎年金には振替加算が、老齢厚生年金には加給年金が加算される可能性がありますが、これらについては繰下げた場合であっても加算部分について増額されることはありませんし、そもそも繰下げしている期間を繰下げ待機期間といいますがこの繰下げ待機期間は老齢基礎年金や老齢厚生年金は支給されませんのでそれに付随する振替加算も加給年金も加算はなされないことになります。

 

 また、65歳以降も厚生年金被保険者である場合は在職支給停止の対象となりますが、仮に老齢厚生年金が在職支給停止の対象となっている場合は、その在職支給停止部分については繰下げの申し出を行った場合でも増額の対象外となります。

 

 補足として、年金の繰下げは最長5年可能ですが、例えば65歳から老齢年金を繰下げた方が72歳で繰下げの申し出を行った場合は、従来では72歳から繰下げ受給することになるため70歳から72歳までの部分を受給することは出来なかったのですが、現在は5年遡及が可能となっているため、この例では70歳に遡って繰下げ受給をすることが可能となっています。

 

※例えば78歳で繰下げ受給する場合は73歳までは遡及が可能となります

 

 また、繰下げ待機中に遺族年金等の他年金が発生した場合は繰下げ受給出来るのはその他年金発生時点までとなりますが、これについても以前は申し出が遅れた場合でもその申し出時点から繰下げ受給することになっていましたが5年遡及が可能となっています。

  

※他年金がの発生時点が1年未満である場合には老齢年金の繰下げ受給は出来ず、受給権発生時点に遡及して老齢年金を受給することになるため注意が必要です

65歳からの老齢厚生年金の支給について②

 特別支給の老齢厚生年金の支給の内訳は、老齢基礎年金に相当する定額部分と老齢厚生年金に相当する報酬比例部分に分けることが出来ますが、「相当する」といっているようにこれらは全て同じではありません。

 

 年金額の計算式が同じという関係上、特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分は老齢厚生年金と連動しますが、特別支給の老齢厚生年金の定額部分の計算式と老齢基礎年金の額の計算は同様ではありませんので年金額が一致せず、定額部分の方が年金額が多いため老齢基礎年金との差額が生じるという問題点が生じます。

 

 この問題点を解消するために経過的加算(差額加算)という考え方がとられています。

 

 国民年金が強制加入となるのは20歳から60歳までとなっており、老齢基礎年金の額というのはこの40年間においてどれだけ国民年金若しくは厚生年金保険に加入するかで決まってきますが、この期間内で計算した定額部分の額と老齢基礎年金の額には差が生じますので、この差の部分について経過的加算がなされるということになります。

 

 また、国民年金とは異なり厚生年金保険における被保険者資格については10代から加入が可能であり上限が70歳となっています。

 

 このため、本来は20歳前や60歳後の厚生年金被保険者期間は老齢基礎年金額には反映されないということになるのですが、経過的加算において老齢基礎年金額の補填がなされるような仕組みとなっています。

  

 なお、経過的加算は定額部分に基づく支給となるので支給は厚生年金保険法による支給ということになり、厚生年金保険からの支給となるのですが、その性質は老齢基礎年金に準ずるものとなっているため、在職支給停止の対象とはならない等、少し特殊である点に注意する必要があります。

65歳からの老齢厚生年金の支給について①

 既に触れたように、年金制度上は厚生年金の支給開始年齢は65歳に引き上げられていますが、制度の改正があった昭和61年4月時点ですぐに支給開始年齢を引き上げてしまうと、60歳定年が主流であった当時においては主として年金により生計を立てるというライフプランが大きく崩れてしまうことになるため、このように大きな改正がある場合には年金制度においては経過的な措置が採られることが通常です。

 

 そのため、現在の60歳から65歳までの年金は、最初は老齢基礎年金に相当する定額部分を、その後に老齢厚生年金に相当する報酬比例部分を引き上げることで段階的に支給開始年齢を引き上げている状態であり、60歳から65歳までの期間は経過的措置として支給されているという意味で65歳以降に支給される老齢基礎年金・老齢厚生年金とは性質が異なる年金であるということを認識する必要があります。

 

 以前に触れたことの繰り返しとなりますが、65歳前に支給される厚生年金被保険者期間に基づく老齢年金を特別支給の老齢厚生年金といい、65歳以降に支給される老齢年金を老齢基礎年金と老齢厚生年金といいます。

 

 特別支給の老齢厚生年金といっているのは、上記に触れているように本来の老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳ですので、経過的に支給される年金という意味で「特別支給」と冠されており、いずれは消滅することを示しています。

 

 また、国民年金による老齢基礎年金の支給開始年齢はもともと65歳であり、支給開始年齢の引き上げが行われたのは厚生年金保険法における老齢厚生年金ですので、特別支給の老齢厚生年金も厚生年金保険法に基づいて支給されることになっています。

 

 つまり、旧厚生年金保険法による老齢年金において定額部分と呼ばれる国民年金でいう老齢基礎年金部分は厚生年金部分より支給されるものであり国民年金部分より支給されるものではないという違いがあります。

 

 このことは、定額部分が支給される場合はその定額部分は厚生年金保険法に基づくものですので老齢基礎年金とは異なり定額部分が在職支給停止の対象となる等、老齢基礎年金と扱いが異なってくる点で注意が必要となります。

 

 65歳以降になって老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給することになると、65歳以降は国民年金、厚生年金共に本来の支給開始年齢ですので、老齢基礎年金は国民年金法に、老齢厚生年金は厚生年金保険法により取り扱われることとなります。

特別支給の老齢厚生年金と老齢厚生年金とは?

 老齢年金とは65歳を境として60歳から65歳までを特別支給の老齢厚生年金、65歳以降を老齢基礎年金と老齢厚生年金というように呼称が変わります。

 

 その理由は、以前触れたように年金制度上は老齢厚生年金の支給開始年齢が昭和61年4月より65歳となり、現在は段階的に支給開始年齢を引き上げているわけですが、本来の老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳ですので、それ以前の経過的な厚生年金の支給を特別支給の老齢厚生年金として区別しているためです。

 

 この特別支給の老齢厚生年金は、65歳以後の老齢基礎年金と老齢厚生年金の支給が国民年金法と厚生年金保険法に基づいて支給されることになるのとは異なり、厚生年金保険法に基づいて支給されるものであり、全ての給付は厚生年金として支給されるものとなっています。

 

 例えば、特別支給の老齢厚生年金の定額部分は、厳密には異なるものの老齢基礎年金と同様の部分であるといえますが、その給付は定額部分が厚生年金保険法に基づく支給であり、老齢基礎年金が国民年金法に基づく支給であるという違いがあります。

 

 ひとつ例を挙げると、在職支給停止は厚生年金部分に対し、標準報酬月額と標準賞与額に応じて支給調整がなされるものですが、老齢基礎年金がこの調整対象とならないのに対し定額部分は厚生年金部分ですので調整対象となる点において異なってくることになります。

 

 また、定額部分の額と老齢基礎年金額では計算式が異なるため満額でも同額とはなりませんが、その差額部分については65歳以後は経過的加算として支給されることになり、この経過的加算は老齢基礎年金に準ずる額として扱われることになります。

  

 特別支給の老齢厚生年金と老齢厚生年金は同様の部分もあるのですが、実際には異なる年金体系により管理されているものである点に留意が必要です。

加給年金と振替加算の関係

 加給年金は一度加算されると終身加算されるものではなく、配偶者が65歳に到達したときや、原則として子が18歳の年度末を迎えた時点で加給年金の加算は終了します。

 

 このとき、加給年金の加算対象配偶者であった配偶者については、当該加算対象配偶者が65歳になったときに相手方配偶者の加給年金の支給が停止し振替加算が加算されることになります(停止といっていますがこの場合は支給再開されることはありません)。

 

 加給年金とは世帯の補助的な意味合いの加算であるため、加給年金の加算対象配偶者が65歳に到達して老齢基礎年金を含めた自分の老齢年金が受給できるようになった以上、世帯全体でみると加給年金の役割を終えたと考えることになるため加給年金は支給停止となります。

 

 それに対し、振替加算とは、昭和41年4月2日生まれ以後の方は20歳到達時点が昭和61年4月であり、昭和61年4月以降は国民年金が強制加入となっており満額の老齢基礎年金を受給する体制が整っていたのに対し、それ以前の生年月日の方については強制加入期間の違いもあり、老齢基礎年金の満額受給が出来ないことが多くなっていました。

 

※当時は専業主婦の方が多かったことが一因としてあります

 

 そこで、強制加入期間の違いに応じて加給年金の加算対象配偶者である場合には一定額の加算をすることとされ、これが振替加算として加算される仕組みとなっているため加給年金額がそのまま振替加算の額とはならないこととなっています。

  

 なお、この振替加算については、加給年金の加算対象配偶者が相手方配偶者より年下である場合は、65歳のハガキを提出することで加給年金の加算停止時に自動的に振替加算が加算されることになりますが、年上の場合は加給年金の加算対象配偶者が65歳以上でかつ相手方配偶者が加給年金の加算対象年齢に到達したときに振替加算が加算されることになり、このときは振替加算自動的に加算されず手続きが別に必要となります。

加給年金とは?

 老齢厚生年金には加給年金という一定の要件を満たした方に対して加算が行われる加給年金という制度があります。

 

 加給年金を受給するには、具体的には厚生年金被保険者期間を20年以上有している方が65歳到達し老齢基礎年金を受給、若しくは定額部分を受給開始した時点で65歳未満の配偶者や18歳の年度末までの子が存在している必要があります。

 

※厚生年金被保険者期間を20年有しない方でも中高齢の特例に該当する場合は加給年金が加算されることがあります

 

※18歳の年度末までの子が障害等級1・2級に該当する障害状態である場合には20歳まで加算が延長されます

 

 また、被用者年金一元化により共済組合も厚生年金保険に一元化されましたが、それにともない現在では厚生年金被保険者期間を合算して20年以上の厚生年金被保険者期間となった場合には加給年金が受給可能となっています。

 

 但し、加給年金の加算対象者である配偶者が、厚生年金被保険者期間が20年以上ある特別支給の老齢厚生年金を受給する場合や、障害年金を受給している場合には加給年金を受給することは出来ません。

 

 つまり、加給年金の加算対象者が、被用者年金一元化により厚生年金被保険者期間を合算して20年以上の特別支給の老齢厚生年金を受給できる場合にも加給年金は受給不可となります。

 

 なお、加給年金には所得の制限がかかっており、加給年金の受給時点で加算対象者である配偶者の年収が850万円以上である場合(所得で655.5万円以上)である場合には加算対象とはならないため注意が必要です。

 

 また、加算対象者である配偶者とは生計維持関係がなければならず、生計維持関係が無い場合にも加給年金の受給対象とはなりません。

  

 補足として(特別支給の)老齢厚生年金受給時の加給年金については、生年月日に応じた特別加算が加算された加給年金を受給することになります。

平均標準報酬月額および平均標準報酬額とは?

 厚生年金保険料を徴収するための基準として報酬月額、標準報酬月額、標準賞与額等を用いることについて触れてきましたが、これは厚生年金保険料を算出するための基準であり、実際の年金額の算出には平均標準報酬月額と平均標準報酬額を用いることになります。

 

 平均標準報酬月額とは各月の標準報酬月額を再評価した総額を被保険者期間で除した額を指します。

 

※再評価とは昔と現在の貨幣価値が異なっていることによる年金額の縮減を避けるため、年金額の計算にあたっては昔の標準報酬月額を今の現在価値に直して計算することを指します。

 

平均標準報酬額とは各月の標準報酬月額と標準賞与額を再評価した総額を被保険者期間で除した額を指します。

 

 平均標準報酬月額は賞与が厚生年金保険料算出の基準でなかった平成15年3月以前までの年金額の算出基準であり、平均票報酬額は賞与が標準賞与額として厚生年金保険料算出の基準となった平成15年4月以降の年金額の算出基準となります。

 

 この平均標準報酬月額と平均標準報酬額に一定の乗率を掛けて年金額を算出することになるのですが、平均標準報酬月額に比べて平均標準報酬額の乗率は低くなっていますので、通常の月額給与のみで平均標準報酬額を算出すると平均標準報酬月額の給付水準に比べて年金額は低くなることになります。

 

 そのため、平成15年4月以降の年金額の算出には賞与額の多寡が大きく影響する仕組みとなっているといえます。

標準報酬月額の決定方法④

4.育児休業等終了時改定

 

 育児休業をする方の場合は、育児休業給付金を受けながら社会保険料免除を受けることが通常であると思いますが、育児休業を終了してから職場復帰をする際に支払われる報酬額と標準報酬月額が乖離している場合があります。

 

 この場合においても、経済的負担の緩和という観点から育児休業が終了したときに改定が可能である扱いとなっています。

 

 対象者は育児休業を終了した3歳未満の子を養育している被保険者で、申出を行った場合は育児休業等の終了日の翌日の属する月以後3ヶ月間の報酬月額の平均が標準報酬月額とされることになり、実際の適用は育児休業等の終了日の翌日から起算して2ヶ月を経過した日の属する月の翌月から変更となります。

 

5.産前産後休業終了時改定

 

 育児休業等終了時改定と同様に産前産後休業が終了したときにも標準報酬月額が改定されることがあります。

 

 適用される契機は、産前産後休業を終了した後に育児等を理由に報酬が低下した場合であり、産前産後休業終了後の3ヶ月間の報酬月額をもとにして標準報酬月額が改定されることになります。

 

 改定契機はこれらに分類されますが、基本は定時決定が主であり、その他はその時々の変動に応じて改定が行われることになるとお考え頂ければと思います。

  

 なお、厚生年金適用事業所には毎年算定基礎届が送付されているはずですので、忘れずに提出を行って頂ければと思います。

標準報酬月額の決定方法③

3.随時改定

 

 標準報酬月額は毎年定時決定が行われることになっているため、一定の実態に合わせた改定がなされているといえますが、定時決定においては定時決定時に決定された標準報酬月額がその年の9月から翌年の8月まで使用されることとなるため、その間に報酬の変動がある場合には実態との乖離が生じることとなります。

 

 そのため、この場合にも標準報酬月額の改定がなされることとなっており、その都度改定が行われることから随時改定と呼ばれます。

 

 この随時改定が行われる契機としては、昇給などにより固定的賃金の変動が生じ、変動した月以後の引き続く3ヶ月間の報酬に基づく標準報酬月額と現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合に随時改定が行われることになります。

 

 例えば報酬月額が200,000円から230,000円に上がった場合、標準報酬月額としては200,000円(17等級)から240,000円(19等級)となり、実態上2等級以上の乖離が生じていますので随時改定の対象となることになります。

 

 但し、変動月以後の3ヶ月間に変動が継続していることが条件ですので、報酬の変動が一過性のものであれば対象とはなりませんし、時間外勤務等による残業代などの変動する賃金上昇等でも随時改定の対象とはなってきません。

 

 なお、この随時改定が行われる場合には、変動月以後の引き続く3ヶ月の翌月、つまり変動月から数えて4月後に改定が行われることになります。

標準報酬月額の決定方法②

2.定時決定

 

 厚生年金被保険者の標準報酬月額が資格取得時決定の額のままで変動がないとすると、厚生年金保険料算定の簡略化の趣旨とは合致しますが実態とは乖離することとなってしまいます。

 

 そのため、毎年1回は標準報酬月額の見直しがなされることとなっており、これを定時決定といいます。

 

 定時決定においては、毎年7月1日から7月10日までの間に被保険者報酬月額算定基礎届を提出することとされており、この算定基準は原則として4月・5月・6月の3ヶ月間に受けた報酬により決定されます。

 

※繁忙期があるなどの勤務内容が一般の事業所と異なる、休職期間がある、アルバイト・パート労働者であるなど、勤務内容によっては通常の定時決定が行えない場合は、その内容に合わせた定時決定が行われることがあります

 

 この定時決定の結果、前年と同様の報酬であれば前年と同様の標準報酬月額となりますが、前年と比べて報酬が上がったり低下した場合は当該報酬に合わせて標準報酬月額が改定されることになります。

  

 なお、定時決定により決定された標準報酬月額については、定時決定がなされた年の9月から翌年の8月までの標準報酬月額として適用されることになります。

標準報酬月額の決定方法①

 標準報酬月額については、各人の毎月の報酬ごとに設定されることになると、厚生年金保険料額算定の簡略化の趣旨から外れてしまい、標準報酬月額を設定した意味が半減してしまいます。

 

 そのため、標準報酬月額を設定するときはいくつか設定する時点が設けられており、標準報酬月額を決定するのはこの一定の時点に限られ、かつ、一定の期間まで設定された標準報酬月額が継続する仕組みとなっています。

 

 具体的には次の時点が存在します。

 

1.資格取得時決定

 

 厚生年金被保険者資格を始めて取得する場合は、その時点で設定されている標準報酬月額が存在しないことになります。

 

 そのため、厚生年金被保険者資格を取得するときに同時に標準報酬月額も設定する必要がありますので、各人の月給、週休、その他の賃金を元に標準報酬月額が設定され、これを資格取得時決定といいます。

 

 この資格取得時決定による標準報酬月額は次回以降に述べる他の決定方法が行われるまで適用されることになります。

標準報酬月額と標準賞与額とは?

 厚生年金保険においては厚生年金保険料を算出する基準は支払われる報酬によることになりますが、各人に支払われる報酬額は千差万別ですのでそのままの額を使用することは厚生年金保険料の算出に非常に手間と時間を要することとなりますので、計算の簡略化のためには一定の基準を設けることが不可欠となります。

 

 そのための基準として設けられているのが標準報酬月額と標準賞与額と呼ばれるものです。

 

 標準報酬月額とは、各人に支払われる各月ごとの報酬額に対し、報酬月額という一定の幅を設けた上、その報酬月額に応じて保険料の算出するための額として定められるものです。

 

 例えば、報酬額が205,000円である場合は、報酬月額においては195,000円から210,000円の幅に入り、この場合には標準報酬月額としては200,000円として決定されることになります。

 

 標準賞与額についても、標準報酬月額と同様に賞与の額に応じて標準賞与額が定められた上で、標準賞与額に応じて保険料が算出されることになります。

  

 実際に受けている報酬や賞与の額がそのまま厚生年金保険料の算出に使用されているわけではありませんので注意する必要があります。

厚生年金被保険者期間が1年未満の場合

 特別支給の老齢厚生年金を受給するには1年以上の厚生年金被保険者資格が必要ですので、65歳前に1年未満の厚生年金被保険者期間があっても特別支給の老齢厚生年金を受給することは出来ません。

 

 但し、被用者年金一元化により、第1号、第2号、第3号、第4号の各厚生年金被保険者期間を合算して1年以上となる場合には、それぞれ各制度ごとに1年以上の厚生年金被保険者期間がなければ特別支給の老齢厚生年金を受けられなかったのとは異なり、平成27年10月以降は特別支給の老齢厚生年金として受給できることになっています。

 

 また、1年未満の厚生年金被保険者資格の部分は65歳以降に老齢厚生年金として受給できることになるのですが、老齢基礎年金を繰上げ受給している場合には、65歳時点で老齢厚生年金の請求を別に行わなければ老齢厚生年金を受給することが出来ないため注意が必要です。

 

 なお、65歳以降に新たに厚生年金被保険者資格を取得した場合には、その厚生年金被保険者資格を取得した時点で新たに老齢厚生年金の受給権が発生することになります。

長期加入者特例とは?

 特別支給の老齢厚生年金については報酬比例部分と定額部分が存在し、生年月日に応じてどのように給付を受けるかが決まっており、定額部分を受給できる生年月日でない場合には報酬比例部分のみ受給することになります。

 

 但し、報酬比例部分のみしか受給出来ない生年月日の方の場合でも、一定の場合に定額部分を合わせて受給することが出来る特例が存在しています。

 

 その一つが長期加入者特例という特例であり、この特例に該当する方の場合には報酬比例部分に加えて定額部分を同時に受給することが出来ることになります。

 

 長期加入者特例に該当するには厚生年金保険を44年以上(528月以上)掛けている方である必要があり、かつ、単一制度だけで厚生年金被保険者期間が44年以上ある必要があります。

 

 言い換えると、一般厚年期間、公務員厚年期間、私学厚年期間の全てを合算して厚生年金被保険者期間が44年となってもこの特例の適用を受けることは出来ませんので注意が必要です。

 

 また、単一制度だけで厚生年金被保険者期間が44年以上あるとしても、長期加入者特例を受けるには厚生年金被保険者資格を喪失する必要があります。

 

 つまり、厚生年金被保険者期間が44年あれば長期加入者特例の該当者ではありますが、実際の適用対象者とはなれないことになります。

 

 また、一度長期加入者特例を受けたからといって、再び65歳前に厚生年金被保険者資格を取得した場合には長期加入者特例の適用対象者から外れることになるため、この点にも注意が必要となります。

 

 なお、長期加入者特例の適用を受ける方に加給年金の対象配偶者が存在する場合には、長期加入者特例による定額部分の受給と同時に加給年金も受給出来る扱いとなっています。

 

 補足として、長期加入者特例では加入月数により特例の該当が明らかなため、退職であれば退職月の翌月から年金額が改定されることになります。

 

※被用者年金一元化より年金額の改定は厚生年金被保険者資格の喪失月の翌月ではなく、退職日の属する月の翌月に改定となります(厚生年金被保険者資格の喪失は退職日の翌日となります)

障害者特例とは?

 特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分のみを受ける方が定額部分を同時に受けることが出来る特例については長期加入者特例の他にもう一つ存在します。

 

 それが障害者特例と呼ばれる特例であり、この特例に該当した場合にも長期加入者特例と同様に定額部分を同時に受給することが出来ます。

 

 障害者特例に該当するためには、厚生年金保険法に定める障害等級3級以上の障害状態である必要があり、障害者特例を受けるためにはこの障害状態に該当している必要があります。

 

 障害者特例に該当するための手続の考え方については2つあり、既に障害年金を受けているかそうでないかによって異なります。

 

 障害年金を受給している場合は、3級以上の障害等級に該当することが明らかですので、必要書類も少なく提出書類はそこまで煩雑とはなりません。

 

 しかし、障害年金を受給していない場合には、初診日の証明や診断書の取得等、必要書類が多くなり請求が難しくなることが多くなるため注意が必要となります。

 

 なお、この障害者特例の適用対象者となるためには長期加入者特例と同様に厚生年金被保険者資格を喪失する必要があり、厚生年金被保険者の場合は障害者特例の適用対象者となることは出来ません。

  

 なお、障害者特例は請求年金であり、申請が認められた場合、年金の支給は請求した月の翌月の支給となりますが、障害年金受給権者の場合には手続きが遅れた場合であっても平成26年4月以降は遡及して認められるようになっています

特別支給の老齢厚生年金とは?

 既に触れている通り、老齢厚生年金の支給開始年齢は昭和61年4月の法律改正で60歳から65歳に引き上げられているため、本来であれば65歳前に老齢厚生年金が支給されることにはならないのですが、いきなりの支給開始年齢の引き上げは年金受給者の生活に少なくない影響を及ぼすことになるため、現在は段階的に支給開始年齢の引き上げが行われています。

 

 この65歳前に受けることになる老齢年金を特別支給の老齢厚生年金と呼び、65歳から支給される本来支給の老齢厚生年金とは区別されています。

 

 この特別支給の老齢厚生年金を受給するには1年以上の厚生年金被保険者期間が必要となっており、1年未満の厚生年金被保険者期間では特別支給の老齢厚生年金を受給することはできず、1年未満の厚生年金被保険者期間の場合は65歳到達時に老齢厚生年金として受給する扱いとなっています。

 

 また、特別支給の老齢厚生年金は、老齢厚生年金部分に準ずる報酬比例部分と老齢基礎年金部分に準ずる定額部分に分かれていますが、現在は報酬比例部分のみを受給する方が殆どであり、一定の年代の女性の方や特定警察職員等の一定の例外を除き、生年月日により定額部分を受給出来る方は限られています。

 

 また、特別支給の老齢厚生年金は65歳以降の老齢年金と異なり、年金を増額して受給することが出来る繰下げという考え方が存在しません。

 

 そのため、特別支給の老齢厚生年金を受給できるにもかかわらず手続きをせずにそのままにしている場合には、5年経過した時点から会計法に基づく支分権の時効により、年金が時効消滅することになるため特に留意が必要となります。

 

※年金の時効消滅とは年金を受ける権利(基本権)自体が消滅することではなく、年金の給付を受ける権利(支分権)が消滅することになります。具体的には5年1ヶ月時点で年金を請求した場合には、遡及して5年分の年金は支払われますが5年を経過した1ヶ月分については時効により消滅するということになります。なお、実際には、年金は後払いという性格上、後払いの時期になるまでは時効消滅はしないことになります。例えば4月分の年金給付は6月支給ですので6月の支給日になるまでは時効消滅しないことになります。

厚生年金保険の被保険者種別とは?

 厚生年金保険は共済組合と平成27年10月に一元化して制度上統一されましたが、制度は統一されてもそれぞれの各共済組合についてはそのまま存続し、各共済組合ごとに年金事務を行なうこととされているため、事務をいずれの機関が行うか決定する必要があります。

 

そのため、厚生年金被保険者についてはいずれの機関に所属するかにより、所属制度の区別をつけるために厚生年金保険上の種別が異なることになっています。

 

 具体的には以下のように被保険者種別が分けられています。

 

①第1号厚生年金被保険者:一般厚生年金被保険者(一般厚年)

 

②第2号厚生年金被保険者:国家公務員共済組合厚生年金被保険者(公務員厚年、国共済厚年)

 

③第3号厚生年金被保険者:地方公務員共済組合厚生年金被保険者(公務員厚年、地共済厚年)

 

④第4号厚生年金被保険者:私立学校教職員共済組合厚生年金被保険者(私学厚年)

 

 なお、厚生年金保険制度は上記の理由で厚生年金の種別が分けられておりますが、制度としては厚生年金保険法に準じて対応がなされることに変わりはないことになります。

老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げとは?

国民年金の老齢基礎年金は65歳時点で支給開始となっていましたが、老齢厚生年金についても昭和61年4月の法改正に伴う新法移行により支給開始年齢が60歳から65歳へと引き上げられています。

 

 しかし、上記の法改正時点でいきなり支給開始年齢を65歳としてしまうと年金により生計を営んで行こうとする方に対して大きな影響が生じライフプランに支障が生じることになります。

 

 そのため、支給開始年齢をすぐに65歳とするのではなく、経過措置として一定の期間を設けて徐々に支給開始年齢を引き上げることとされています。

 

 更に、支給開始年齢の引き上げも2段階となっており、最初は定額部分(国民年金でいう老齢基礎年金に相当する部分)の引き上げから始まり、定額部分の引き上げの後に報酬比例部分(老齢厚生年金に相当する部分)が引き上げられ、最終的に老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳とされることになっています。

 

※定額部分は平成6年法改正により、報酬比例部分は平成12年法改正により支給開始年齢の引き上げを実施

 

 そのため、65歳を境にして65歳前の年金と65歳以降の年金は制度上は別物となっており、65歳前の老齢年金を特別支給の老齢厚生年金、65歳以後の老齢年金を老齢基礎年金、老齢厚生年金として区別されます。

 

 なお、男子と女子の特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げは、以前に男子と女子の定年年齢が5年違いであったことに鑑み、女子の支給開始年齢の引き上げが男子に比べて5年遅くなっており、男子は昭和36年4月2日以後は支給開始年齢が完全に65歳以後となるのに対し、女子の場合は昭和41年4月2日以後に支給開始年齢が完全に65歳以後となります。

厚生年金被保険者の適用拡大とは?

厚生年金保険適用事業所に勤務される方は、正社員であれば厚生年金保険が適用されますが、短時間労働者やパート・アルバイトの方については1週間の労働時間および1ヶ月の労働日数が概ね4分の3以上働いている場合は厚生年金保険が適用されることになります。

 

 言い換えると上記の要件に当てはまらない短時間労働者やパート・アルバイトの方については厚生年金被保険者とはならないことになりますが、この要件が平成28年10月から拡大されています。

 

 具体的には以下の4つの基準を満たしている場合には厚生年金被保険者となることになります。

 

①週の所定労働時間が20時間以上

 

②賃金月額が88,000円以上

 

③勤務期間が1年以上見込まれる

 

④従業員数501人以上の企業に勤務

 

 上記のうち、④において企業規模の要件が課されていますので、一定規模以上の企業に勤務していない場合には厚生年金被保険者となることはありませんが、例えば、全国的に大きなチェーン店に勤務されている場合には全従業員数が501人を超えていることが通常ですので、この場合に上記の要件に該当する場合には厚生年金保険に加入することとなります。

 

 なお、厚生年金に加入することは手取りの給与が減るという面では表面上影響が生じますが、厚生年金被保険者となることは厚生年金保険の手厚い保障を受けることができるという点、厚生年金保険料は事業主と折半となっているため実質的に国民年金保険料と比べて割安となることが多い点など、デメリット以上のメリットを享受することが出来ることが多いため、可能な限り厚生年金保険をかけることが望ましいといえます。

 

※但し、働き方によっては配偶者控除が外れることや、厚生年金被保険者となった場合は健康保険にも強制加入ですので被扶養配偶者として健康保険が利用できなくなる等のデメリットについても考慮する必要があります

厚生年金被保険者について

厚生年金保険の適用事業所に勤務し適用対象者であるときは厚生年金被保険者となりますが、厚生年金被保険者は、国民年金のように20歳から60歳までと枠があるのとは異なりその適用年齢に下限がありません。

 

 つまり、義務教育以後であれば厚生年金被保険者となることは可能であり、中学卒業以後に厚生年金保険の適用事業所に勤務する適用対象者であれば厚生年金被保険者となり、20歳以後に国民年金への強制加入時に年金手帳が交付されるように、10代で厚生年金保険に加入したときは初めて厚生年金保険に加入したときに年金手帳が交付されることになります。

 

 また、厚生年金保険の加入上限は70歳までであり、70歳まで厚生年金保険に加入している場合でも70歳到達時点で厚生年金被保険者資格は喪失することになります。

 

 この厚生年金保険被保険者については以前は共済組合加入員とは別制度として存在していましたが、平成9年4月よりJR・JT・NTT職員が、平成14年4月より農林漁業団体職員が、平成27年10月より国家公務員共済組合員、地方公務員共済組合員、私立学校教職員共済組合員が厚生年金保険に統合されており、各共済組合は存続していますが制度としては厚生年金保険に一本化されて現在に至ります。

 

 厚生年金保険に加入したときは加入した月から退職した日の前月(資格喪失日の前月)までの月単位の加入となります。

  

※国民年金と厚生年金保険の同月得喪の場合は、同月において前後に取得した制度のうち後の制度に準じることになります。また、退職した月が月末である場合は厚生年金保険の資格喪失日が退職日の翌日となる関係上、退職した日が属する月まで厚生年金被保険者となります。例えば3月31日退職の場合は4月1日が資格喪失日となるため、3月まで厚生年金被保険者となります

厚生年金保険と国民年金との違いとは

会社員の方(正確には厚生年金保険適用事業所に勤務し厚生年金保険を適用されている方)や公務員の方については勤務されているときは厚生年金保険に加入し、それ以外の方は20歳から60歳までの期間は国民年金に加入します。

 

 厚生年金保険と国民年金の大きな違いは、国民年金が国民年金法による補償のみが行われるのに対し、厚生年金保険は国民年金法の他に厚生年金保険法による補償が行われることにあります。

 

 言い換えると、厚生年金保険に加入している方は国民年金にも同時に加入していることになり、一般的にいわれる2階建ての制度とはこの点に由来します。

 

 そのため、年金としては老齢年金、障害年金、遺族年金の三種類に分類されますが、国民年金のみであれば老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金による補償が行われますが、厚生年金保険に加入していれば上記に加えて老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金による補償が行われることになり、より補償が手厚くなります。

 

※各種年金を受給するには様々な要件があり、全ての方が上記の年金による補償を受けられるわけではありません。また、年金の他にも厚生年金保険、国民年金による補償はあります。

 

 厚生年金保険は国民年金に比べて補償が非常に手厚くなるという点において有利な制度であり、加入が可能なのであれば将来に備えて厚生年金保険に加入することが望ましいといえます。

  

※但し、20年以上厚生年金に加入することで加給年金に影響したり、65歳以降の遺族厚生年金先当てに影響したりするため、必ずしも有利とならないことがある点には注意を要します

国民年金(老齢基礎年金)の繰下げについての考え方

 老齢基礎年金の繰下げ請求については、最大繰下げたとしても5年が限度であり、それ以上繰下げ待機したとしても増額分に変更はありません。

 

 そのため、65歳到達時に老齢基礎年金の受給権が発生する方は最大で70歳まで繰下げることが出来るということになりますが、仮に68歳時点で老齢基礎年金の受給権が発生する場合は最大繰下げできる期間が72歳までとなることになり、何歳まで老齢基礎年金を繰下げ出来るかはいつ老齢基礎年金の受給権が発生するかにより異なることがあります。

 

 また、仮に65歳到達時に老齢基礎年金の受給権が発生する方が72歳で老齢基礎年金の繰下げ請求をした場合には、70歳到達時点に遡って増額された老齢基礎年金を受給することになります。

 

※この方が仮に65歳に遡及して老齢基礎年金の受給を希望したとしても、繰下げと異なり65歳時点に遡及する場合は2年分の老齢基礎年金が時効にかかることになります

 

 言い換えると、上記の方が76歳時点で老齢基礎年金の繰下げ請求をした場合には、5年分は遡及して増額分の老齢基礎年金を受給できますが、1年分は時効にかかってしまうということになります。

 

 なお、仮に65歳時点で老齢基礎年金の受給権が発生する方が老齢基礎年金の繰下げ請求を希望する場合であっても、別に障害年金や遺族年金の受給権が発生している場合にはその発生時点で内容が以下のようになります。

 

①65歳前に他の年金が発生

 

 この場合には繰下げ請求をすることは出来ません

 

②65歳から66歳到達前時点で他の年金が発生

 

 この方については繰下げ待機中ということになりますが、1年間の繰下げ待機期間が無いため繰下げ請求は出来ず、65歳時点に遡及して老齢基礎年金を受給することになります

 

③66歳以降に他の年金が発生

 

 この方については1年以上の繰下げ待機期間があるということになるので希望すれば繰下げ請求は可能ですが、繰下げ可能なのは他の年金の発生時点までの期間に基づく繰下げ請求となります。

 

 また、繰下げ請求ではなく65歳まで遡及して老齢基礎年金を受給することも可能です。

  

 補足として、遺族厚生年金の受給権が発生する場合、老齢基礎年金の他に老齢厚生年金も繰下げしてしまうと、遺族厚生年金は自分の老齢厚生年金との差額支給となり遺族厚生年金に影響が出るため注意が必要となります。

国民年金基金とは?

国民年金による老齢基礎年金については全国民に加入義務がありますが、平成29年度価額において満額(フルペンション)の老齢基礎年金であっても779,300となっていますので、老齢基礎年金額だけで将来の生計を担っていくのは難しいという面は否めません。

 

 その将来設計を補うものとして存在している制度の一つが国民年金基金制度です。

 

※国民年金のみの方が将来に備えるためのものとしては、他に確定拠出年金、小規模企業共済、付加年金、農業者年金、個人年金、NISAなど多種多様なものがありますので、必要に応じて組み合わせ等をして活用することが望ましいといえます。

 

 この国民年金基金に加入できるのは国民年金の第1号被保険者の方に限定されており、第2号被保険者の方や第3号被保険者の方は加入することは出来ません。

 

※第2号被保険者の方は厚生年金被保険者でもあるため既に厚生年金による補償があること、第3号被保険者の方は被扶養配偶者であり国民年金保険料を免除されている方のため対象から除外されています

 

 また、国民年金第1号被保険者であったとしても、国民年金保険料を納めている方が対象であり、国民年金基金の掛金のみ納めて国民年金保険料を納めないということはできず、加入する場合は保険料と掛金の両方を納めることが前提です。

 

 言い換えると、国民年金保険料を全額納めることにはならない一部免除を含めた国民年金保険料の免除を受けている方や学生納付特例、若年者納付猶予制度を利用している方は国民年金基金に加入することは出来ません。

 

 なお、国民年金基金は最低限1口に加入する必要があり、68,000円を上限として将来の給付希望額に合わせて口数を積むことが出来ます。

 

 また、給付の型を選択することができ、終身年金または有期年金、有期年金であっても給付の希望期間を考慮して給付の型を選択することになります。

 

 

 補足として国民年金基金の掛金については、その全額を社会保険料控除として使用することが出来ますので、将来への備えと現在の税負担の軽減を図ることが出来る非常に有利な制度であるといえます。

国民年金(老齢基礎年金)の繰下げによる増額率とは?

 老齢基礎年金の繰上げ請求に減額率があるように、老齢基礎年金の繰下げ請求にも繰下げる時期により増額率が決まることになっており、以下のようになっています。

 

【昭和16年4月1日以前生まれ】

 

 66歳支給開始(1年繰下げ):112%の年金額支給となり12%増額

 

 67歳支給開始(2年繰下げ):126%の年金額支給となり26%増額

 

 68歳支給開始(3年繰下げ):143%の年金額支給となり43%増額

 

 69歳支給開始(4年繰下げ):164%の年金額支給となり64%増額

 

 70歳支給開始(5年繰下げ):188%の年金額支給となり88%増額

 

【昭和16年4月2日以降生まれ】

 

 66歳支給開始(1年繰下げ):108.4%の年金額支給となり8.4%増額

 

 67歳支給開始(2年繰下げ):116.8%の年金額支給となり16.8%増額

 

 68歳支給開始(3年繰下げ):125.2%の年金額支給となり25.2%増額

 

 69歳支給開始(4年繰下げ):133.6%の年金額支給となり33.6%増額

 

 70歳支給開始(5年繰下げ):142%の年金額支給となり42%増額

 

※昭和16年4月2日以降生まれの方は1ヶ月支給を遅くする毎に0.7%の増額率となっているため、年ごとの繰下げではなく何月繰下げたかで増額率が決定(但し、最低1年以上の期間が必要)されますが、昭和16年4月1日以前の生まれの方は年ごとの繰下げとなっている点で現在と異なります。

国民年金(老齢基礎年金)の繰下げとは?

 国民年金の老齢基礎年金は65歳から支給開始となりますが、あえて65歳から受け取らずに老齢基礎年金を増額して受け取る方法が存在します。

 

 増額して老齢基礎年金を受けるためには、老齢基礎年金の繰下げ請求という請求を行う必要があり、この老齢基礎年金の繰下げ請求をするには受給権取得時点から1年以上経過している必要があり、受給権取得時から1年経過していない場合は老齢基礎年金の繰下げ請求をすることは出来ません。

 

 また、老齢基礎年金の繰上げ請求が繰上げ請求時点で減額率が決定することと同様に、老齢基礎年金の繰下げ請求も繰下げ請求時点で増額率が決定した老齢基礎年金を受給することになる点で両者共に請求年金となります。

 

 なお、老齢基礎年金の繰下げ請求とは、年金繰下げをしている期間を繰下げ待期期間といいますが、この繰下げ待機期間分の老齢基礎年金を受給しない代わりに年金額を増額する請求です。

 

 例えば、65歳受給開始年齢の方が68歳時点で老齢基礎年金の繰下げ請求をするということであれば、3年分の老齢基礎年金を受給しない代わりに増額した年金を受け取るということです。

  

※なお、上記の例では老齢基礎年金の繰下げ請求を選択することも出来ますし、3年分の老齢基礎年金を遡及して受給することも可能となります