保険料納付要件

 障害年金の請求を行うにあたっては、公的な社会保障という性質上無制限に保障を行うというわけにはいかず、障害年金を請求するまでに保険料をどの程度納めてきたかによって障害年金を請求することが出来るかが決まってきます。それが保険料納付要件と呼ばれる要件であり、この保険料納付要件を満たすためには初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間があるときは、その被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上であることが求められます(以下、3分の2要件と呼称します)。但し、平成38年4月1日前に初診日がある傷病で障害になった場合には、初診日の属する月の前々月までの1年間のうちに保険料の滞納がなければ保険料納付要件を満たす特例があります(以下、直近1年要件と呼称します)。この3分の2要件か直近1年要件のいずれかを満たさなければ障害年金を請求することは出来ませんが、この保険料納付要件については以下のように考えることになります。

 

①国民年金被保険者期間

 

 国民年金被保険者期間は事業主が保険料を徴収して納付することになる厚生年金被保険者期間とは異なり、国民年金被保険者自身に保険料納付義務が課せられています(但し、厚生年金被保険者である国民年金第2号被保険者の配偶者である第3号国民年金被保険者は保険料納付が免除されています)。この国民年金被保険者期間については、保険料納付済期間・保険料免除期間・保険料未納期間に分かれ、保険料納付要件の原則である3分の2要件を満たすには保険料未納期間が3分の1未満である必要があるということになります。言い換えると、保険料納付要件を満たすには保険料納付済期間か保険料免除期間であれば良いことになりますので、収入が低いため保険料が納められない場合でも保険料の免除申請をしておくことで保険料納付要件を満たせることになります(保険料免除期間はその免除の内容によって将来の老齢基礎年金額が変動します)。この保険料免除期間には全額免除期間と一部免除期間がありますが、一部免除期間の場合は全額免除とは異なり保険料が免除されている部分以外の納付が必要な部分を納付していない場合は保険料未納期間となるためこの点には注意を要します。また、保険料免除制度に類する制度に納付猶予制度である学生納付特例制度と若年者納付猶予制度があり、この制度を利用することで保険料免除期間と同様に保険料納付要件を満たすことが可能になります(納付猶予の場合は年金の受給資格期間には算入しますが後に保険料を追納しなければ将来の老齢基礎年金額には反映しない点で保険料免除制度とは異なります)。なお、保険料納付・保険料免除・保険料納付猶予のいずれを行う場合でも、初診日以後に行った場合には逆選択となってしまうため、障害年金請求時点では保険料未納期間とされてしまう点に注意を要します。

 

②厚生年金被保険者期間

 

 会社員や公務員の場合は、一部の任意適用事業所を除いて厚生年金被保険者となりますが、保険料は事業主が徴収して納付することになるため、事業主が保険料の納付を怠っている等の例外を除いて保険料未納期間となることはありません。また、厚生年金被保険者となれるのは70歳以下であり、20歳未満や60歳以上でも厚生年金被保険者となることができ、保険料納付要件をみる場合にはこの20歳未満60歳以上の期間についても保険料納付済期間として算入することになります。

 

③平成3年4月30日以前に初診日がある場合

 

 昭和61年4月1日を境に年金制度の大改正が行われ、その改正前を旧法制度、改正以後を新法制度として分けて考えるようになっています。但し、障害年金制度上の保険料納付要件については、平成3年4月30日以前は基準月がベースとなっており、初診日の属する月の前々月をベースとするのは平成3年5月1日以降に適用となっております。基準月とは1・4・7・10の各月を指し、この基準月を起点とする場合には、初診日の月前の直近の基準月の前月までの期間に3分の2要件または直近1年要件を満たしているかを見ることになります。腎疾患による人工透析などの比較的長期に渡る傷病の場合には平成3年4月30日以前に初診日がある場合もあり、この場合の保険料納付要件を適用する場合にはこの考え方によることになります。但し、昭和61年4月1日前の旧法制度期間における保険料納付要件については更に異なっているため、初診日が旧法制度期間にかかっている場合は特に注意を要する必要があります。

 

④65歳以後に初診日がある場合

 

 保険料納付要件をみる場合には、3分の2要件と直近1年要件のいずれかを満たせば問題ありませんが、法律上、直近1年要件を満たすことで障害年金請求が可能なのは65歳未満に限られています。そのため、65歳を超えて障害年金を請求する場合には、原則である3分の2要件を満たせなければ障害年金の請求が出来ないことになります。

 

⑤合算対象期間

 

  被用者年金制度の配偶者であった期間、平成3年4月1日前の学生であった期間、海外在住期間、永住許可・帰化に関わる期間、国会議員や地方議会議員であった期間など、年金の受給資格期間としては算入するが年金額としては反映しない合算対象期間がある場合、3分の2要件をみる際は合算対象期間は除外して考えることになります。

 

⑥直近1年要件の場合

 

 直近1年要件をみる場合には歴月で考えます。また、直近1年要件の要点は直近1年間において保険料の未納が無いことです。つまり、保険料未納期間でなければ良いため、保険料納付済期間、保険料免除期間はもとより合算対象期間や60歳から65歳までの強制加入でない期間等についてもそれらの期間を含めて保険料未納期間が直近1年間に存在しなけば保険料納付要件を満たすということになります。

 

⑦初診日の前々月までに保険料納付要件が存在しない場合

 

 18歳になり初めて厚生年金被保険者となった月に初診日がある場合や、20歳となった月の翌月に初診日がある場合には、初診日前日において初診日の属する月の前々月までに被保険者期間が存在しないことになります。この場合には考慮するべき被保険者期間が存在せず保険料未納期間も存在しない以上、保険料納付要件を充足することになります。

 

⑧法定免除期間

 

 生活保護受給期間等、一定の要件に該当する場合は年金制度上は法定免除期間に該当することになり、国民年金保険料は当然に法定免除されることになります。しかし、制度の不知や届出漏れ等により、本来は法定免除期間とすべき所が他の年金加入記録となっている場合があります。この場合に年金記録の訂正を行うと、遡及して当初より法定免除期間となることになるため、保険料納付要件を満たすことになる場合もありえることになります。