事業所未加入時の加入要件

 厚生年金保険の適用事業所において、適用事業所であるにもかかわらず事業所が年金事務所に対して被保険者資格取得届を行っていない場合があります。当該期間は本来厚生年金被保険者期間ということになりますが、会社が届出を行っていない以上、国民年金被保険者として保険料を納めることとなる結果、このときに初診日が存在する場合は加入時の年金制度は国民年金ということになりますので、障害基礎年金の請求となり障害厚生年金の請求は出来ないということになります。この場合に、障害基礎年金と障害厚生年金では給付内容が全く異なるため、その対応として当該期間が厚生年金被保険者期間であることの確認を求める制度として被保険者確認請求があり、被保険者確認請求を行って認められた場合は当該期間を厚生年金被保険者期間とし、厚生年金の加入要件を満たすことが出来るようになります。この被保険者確認請求を行った場合には内容に応じて次のようになります。

 

①給与から厚生年金保険料を源泉徴収されていた場合

 

 給与から厚生年金保険料が源泉徴収されていたにもかかわらず事業所が年金事務所に対して被保険者資格取得届を行っていなかった場合は、主張が認められることで国民年金被保険者から厚生年金被保険者へと年金記録訂正が行われることになります。重要なのは、このケースの場合は、通常、保険料納付の時効消滅期間は2年となっていますが、厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律によりこの時効消滅期間にかかわらず年金記録が回復することにあります。厚生年金保険法75条においては、保険料納付の時効消滅による保険給付制限の規定が置かれており、保険料が源泉徴収されていたにもかかわらず事業主の不法行為により被保険者が給付制限の不利益を被ることになる問題点があり、この給付制限を回避するために法による救済が図られています。

 

②給与から厚生年金保険料を源泉徴収されていない場合

 

 給与から厚生年金保険料が源泉徴収されていなかった場合は、①とは異なり源泉徴収による保険料納付の事実が存在しません。そのため、被保険者確認請求が認められ、当該期間が遡及して厚生年金被保険者期間となった場合でも特例法の適用対象とはならず、厚生年金保険法75条の規定により被保険者確認請求以前2年間を経過する部分については時効消滅期間となり、例えその期間に国民年金保険料を納めていたとしても還付対象となり当該期間は保険料未納期間となります。そのため、被保険者確認請求を行うことで厚生年金の加入要件を満たせるようになったとしても、保険料未納期間の増加により障害年金請求時の保険料納付要件を満たせなくなることがあり、障害年金の請求自体が出来なくなることはもとより、障害年金受給者の場合は障害基礎年金から障害厚生年金への裁定替えではなく障害基礎年金の不支給および返納の事態に発展することになります。また、保険料未納期間が増加することにより将来の老齢基礎年金額の減少という影響も生じる可能性があります。更に、年金記録の回復に伴い、納めていなかった厚生年金保険料について被保険者負担分について納付する必要が生じます(事業主負担分は事業主負担)。このように、①とは異なり広範囲にわたって影響が生じることになるため、被保険者確認請求を行う場合は慎重に行う必要があります。なお、①において源泉徴収されていた場合でも、その源泉徴収の事実を証明できない場合は②に準じることとなるため、この点にも注意を要します。

 

※被保険者確認請求とは

 

 被保険者確認請求とは、事業所の所在地を管轄する年金事務所の適用課に対して行う請求で、被保険者確認請求書に雇用契約書等の被保険者となることの事実を確認出来る書類を添付することで行います