20歳前障害年金とは

 国民年金の強制加入被保険者となるのは20歳以降ですので、20歳前に厚生年金保険に加入するのでなければ年金制度に加入することはありません。

 

 しかし、20歳前であっても先天性の傷病を持っている方や20歳前に傷病にかかったり怪我をされる方はおられるため、これらの方に何も保障がないとすれば社会保障制度の不備ということになります。

 

 そのため、これらの方に対しても20歳前障害年金という形で障害年金を受けられることとし、制度上の保障を図っています。

 

 但し、20歳前障害年金は保険料の納付が前提となる給付の拠出制障害年金と異なり、保険料の納付が前提とならない給付の無拠出制障害年金となります。

  

 ですので、所得上の制限が課されており、一定額を超える所得がある場合には、所得におうじて半額停止、全額停止と所得に応じてその支給を停止することとされており、毎年の所得審査が課されることになります。 

保険料納付要件とは②

 障害年金を受給するためには保険料納付要件を満たす必要があるわけですが、具体的には次の2つの要件のうちいずれかを満たす必要があります。

 

1.3分の2要件

 

 初診日の前日の時点で、その前々月までの被保険者期間のうち保険料納付済期間、保険料免除期間、納付猶予期間が3分の2以上あることが必要です。

 

 これが原則である3分の2要件であり、この要件を満たせない場合は障害年金の請求自体が出来ません。

 

 また、逆選択を防ぐため、初診日の前日における保険料納付要件が問題となるため、初診日以後に保険料を納付して3分の2要件を満たしたとしてもそれは認められないこととなるため注意が必要です。

 

2.直近1年要件

 

 原則は3分の2要件が適用されることになるのですが、初診日の前々月までの1年間において保険料未納期間がなければ直近1年要件を満たすこととなるため、この要件に該当した場合には3分の2要件を満たせないとしても障害年金の受給は可能です。

 

 但し、直近1年要件は平成38年3月までの期間に初診日がある場合で、かつ、65歳未満の場合に適用されるものですので、この条件に該当しない場合は直近1年要件を使用することは出来ないため注意が必要です。

 

 上記は保険料納付要件を考える上での基本となっています。

保険料納付要件とは①

 老齢年金に代表される公的年金制度は社会保険の一種であり保険制度の一種です。

 

 保険ですので制度による保障を受けるためには保障を受けるための負担があるかをみるということになりますが、これを保険料納付要件といいます。

 

 但し、一般的な生命保険や医療保険については保険料を納めているかが前提で給付が行われるかが決定されるのに対し、公的年金制度の保険料納付要件では公的制度という社会保障の側面があるため、保険料を納めていないからといって一律に保険給付を行わないということにはなりません。

 

 公的年金に加入している期間を被保険者期間といいますが、この被保険者期間は保険料を納めた期間である保険料納付済期間の他、保険料免除を受けている期間である保険料免除期間、保険料納付の猶予を受けている期間である学生納付特例期間や若年者納付猶予期間であっても保険料納付要件を満たす扱いとなっています。

 

 保険料を納める余裕がないという理由だけで保険料未納期間とすることはするべきではなく、必要に応じて免除や納付猶予を受けておくことで将来の備えにすることが重要であり、何もしないでおくことは自ら権利を放棄する結果となりかねないため注意が必要となります。 

障害認定日以降の傷病の悪化②

 障害認定日以降に傷病が悪化した場合は、障害状態の悪化に応じて事後重症請求を行なうことが出来ますが、事後重症請求は障害認定日に行う障害認定日請求と比べて以下の違いがあります。

 

1.65歳の境目

 

 障害認定日請求が65歳を過ぎても請求できる可能性があるのに対し、事後重症請求は65歳を過ぎた場合には請求することが出来ません。

 

 障害認定日請求の場合は初診日が65歳前にある場合には障害認定日時点が65歳を超えていた場合でも請求することは可能です(初診日、障害認定日ともに65歳を超えている場合には不可です)。

 

 そのため、事後重症請求を検討している場合には年齢に特に注意が必要となります。

 

2.請求内容の違い

 

 障害認定日請求においては受給権の発生日が障害認定日になるのに対し、事後重症請求の場合は請求時点において受給権が発生する違いがあります。

 

 つまり、障害認定日請求は障害認定日に受給権が発生するため、時効の問題はありますが受給開始時点が遡及するのに対し、事後重症請求では請求時点で受給権が発生することになるため、障害状態に該当した場合は速やかに請求を行う必要があります。

 

 これが事後重症請求が請求年金とされるゆえんであり、例えば、月末に請求するのと次月に請求するのでは1ヶ月分の年金が違ってくるということになります。

障害認定日以降の傷病の悪化①

 障害年金制度においては障害状態を認定する基準日である障害認定日がありますが、障害認定日は初診日から1年6ヶ月を経過した時点での障害の状態に当てはめて障害状態に該当するかを診査することになるため、1年6ヶ月の時点では障害状態に該当していないということもあります。

 

 特に、腎疾患等の病状がゆっくり進行する傾向のある傷病においては、1年6ヶ月時点では障害状態でない場合には障害認定日での請求は審査ではねられてしまうこととなってしまうため、障害認定日での請求自体は可能であるものの現実的ではありません。

 

 この場合には、実際に障害状態となった時点での請求をする必要があり、この請求を事後に悪化した時点での請求という意味で事後重症請求といいます。

 

 但し、この事後重症請求を行なうためには、65歳以降に所得補償である老齢年金を受給出来るという関係上、65歳以降は障害年金の請求をすることが出来なくなるため注意を要します。              

障害認定日の特例とは⑤

 前回触れた人工肛門造設、尿路変更術、新膀胱造設については併合することがあり、併合した場合の障害認定日の扱いは以下のようになります。

 

ア.人工肛門造設と新膀胱造設

 

 人工肛門造設は6ヶ月の経過観察があるのに対し、新膀胱造設の場合は造設日に症状固定とされることになっているため、この場合は人工肛門造設日から起算して6ヶ月を経過した日または新膀胱造設日のいずれか遅い日とされることになります。

 

イ.人工肛門造設と尿路変更術

 

 人工肛門造設と尿路変更術はいずれも6ヶ月の経過観察期間があるため、それらの処置を行った日のいずれか遅い日から起算して6ヶ月を経過した日とされることになります。

  

 なお、尿路変更術が完全排尿障害であっても考え方は同様となります。

障害認定日の特例とは④

11.人工肛門造設、尿路変更術

 

 人工肛門(ストマ)の造設や尿路変更術を施した場合は、当該処置を行った日から6ヶ月を経過した日を症状固定日とする扱いとなっています。

 

 この扱いについては、従来は「処置を行った日から6ヶ月」という経過観察事項がなかったものが障害認定基準の改定により当該扱いに変更となっているため注意が必要です。

 

12.新膀胱造設

 

 新膀胱を増設した場合は造設日が症状固定日となります。

 

 この扱いは造設日に症状固定となる点で上記とは異なることになります。

  

なお、これらの障害は単独では3級相当とされますが、人工肛門を造設し、かつ、新膀胱造設か尿路変更術を併合しているケース、人工肛門を造設し、かつ、完全排尿障害状態を併合しているケースは2級認定の扱いとなっています。

障害認定日の特例とは③

8.人工透析

 

 ネフローゼや慢性腎炎等で腎機能が低下し慢性腎不全に至ると人工透析(血液透析療法)を導入せざるを得ない場合があります。

 

 この人工透析を行なうことになった場合は、人工透析開始日から3ヶ月を経過した日に症状固定とされます。

 

 但し、腎疾患により人工透析を行う場合には、その病状の進行は長期間に渡ることが多く、初診日から1年6ヶ月を経過していることが多くあります。

 

 この特例適用時点で既に初診日から1年6ヶ月を経過している場合には、3ヶ月をまたず人工透析開始時点から障害年金の請求が可能となるため注意が必要です。

 

9.神経系の障害による現在の医学による根本的治療が不可の疾病

 

 神経系の障害により今後の回復が期待できず、6ヶ月経過日以後で、気管切開下での人工呼吸器(レスピレーター)使用や胃瘻等の恒久的な措置が行われており、日常の用を弁ずることが出来ない状態であると認められる場合に症状固定とされます。

 

 このケースも脳血管障害同様に経過観察として6ヶ月の経過日以後の状態をみることになります。

 

10.遷延性植物状態

 

 遷延、つまり長期的な重度の昏睡状態であるときに、その障害状態に至った日から起算して3ヶ月を経過した日以後に医学的観点から機能回復が殆ど望めないと認められる場合に症状固定とされます。

 

 遷延性植物状態であるかどうかは経過観察として3ヶ月の経過日以後の状態をみることになります。

障害認定日の特例とは②

5.脳血管障害

 

 脳出血や脳梗塞による脳血管障害により肢体などに障害が生じた場合、初診日から6ヶ月経過した日以後に医学的観点からそれ以上の機能回復が殆ど望めないと認められるとき、つまり、医学的に回復可能性が殆ど無い状態に至っている場合に症状固定とします。

 

 脳血管障害の場合は肢体等の機能回復可能性を考慮して、症状固定に至る経過観察期間の6ヶ月を設けられており、この6ヶ月経過日以後に症状固定の状態であると認定されることが必要となります。

 

6.人工弁、心臓ペースメーカー、ICD(植え込み型除細動器)、CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)、人工血管(ステントグラフトを含む)

 

 心疾患の場合はその状態により上記のようなものを必要とする場合があります。

 

 この場合には上記のものを装着や挿入置換した時点を症状固定とします。

 

7.心臓移植、人工心臓、補助人工心臓

 

 心臓の機能低下が著しい場合は6の器具等では対応できず心臓移植等が必要な場合があります。

 

 この場合には心臓移植時や人工心臓等の装着日を症状固定とします。

障害認定日の特例とは①

 障害認定日とは前回触れた通り初診日から1年6ヶ月を経過した時点を指しますが、傷病によってはそのように取り扱うことが不合理な場合があり、1年6ヶ月を経過していなくとも障害が医学的に治癒した時点を障害認定日として取り扱う場合があり、これを障害認定日の特例といいます。

 

 障害認定日の特例として挙げられるのは次のようなものになります。

 

1.咽頭全摘出

 

 咽頭癌などで咽頭を全摘出した場合には、その全摘出した時点を症状固定とします。

 

2.人工骨頭、人工関節挿入置換

 

 骨折や変形性股関節症などで人工骨頭や人工関節を挿入置換した場合には、その挿入置換した時点を症状固定とします。

 

3.肢体の切断または離断

 

 交通事故などで手足等を切断または離断した場合には、原則としてその切断または離断日を症状固定とし、障害手当金に該当する場合は創面治癒日を症状固定とします。

 

4.在宅酸素療法

  

 在宅による在宅酸素療法を行っている場合には、その在宅酸素療法を常時行うようになった開始日を症状固定とします。

障害認定日とは

 障害年金は怪我や傷病による障害が発生している場合は、その障害の程度に応じて受給することが出来ますが、障害の程度はその怪我や傷病により様々ですし、障害の状態が変動することもありますので、いつの時点の障害状態をもって障害年金の認定をするか一定の基準が必要となります。

 

 そのために設けられているのが障害の程度を判定する日である障害認定日という基準です。

 

 障害認定日は初診日から1年6ヶ月経った日とされており、原則はこの障害認定日の時点での状態により障害の状態が審査されることになります。

 

 この障害認定日で障害の状態に該当した場合は、この障害認定日の時点で障害年金の受給権が発生することになっています。

 

 言い換えると、障害認定日時点で障害状態であれば障害認定日に障害年金の受給権が発生する以上、障害認定日以後の請求時点で障害年金の受給権が発生するのではなく、障害認定日に遡及して障害年金を受給することとなります。

 

 障害年金の遡及請求とは上記のことを指しています。

障害年金の初診日とは④

4.保険料納付要件

 

 初診日は保険料納付要件という要件に大きく影響を及ぼします。

 

 障害年金を受給するためには、どの程度保険料を納めていたかが必ず問われることになっており、この考え方を保険料納付要件と呼びます。

 

 保険料納付要件とは以下の要件となっています。

 

ア.初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間の3分の2以上が保険料納付済期間又は保険料免除期間であること

 

イ.初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの1年間に保険料未納期間がないこと(平成38年4月1日前まで)

 

 上記の要件を満たせない場合には障害年金の請求自体が出来ないこととなるため、非常に重要な要件となります。

 

 アの要件を満たせない場合でも、イの要件を満たせば現状では障害年金請求は可能であるため保険料未納期間としないことが重要であり、保険料を納めることが困難であっても免除や納付猶予を受けておくことが非常に重要であるといえます。

障害年金の初診日とは③

3.年金額

 

 国民年金法による障害基礎年金は1級と2級がありますが、何れの等級であっても年金額は固定であり、国民年金被保険者であればどこの時点で初診日があってもその年金額は変わりません。

 

※子の加算や国の政策上の変動等はあります

 

 しかし、厚生年金被保険者の場合はいつの時点が初診日であるかで年金額に変動が生じます。

 

 例えば、厚生年金被保険者として厚生年金を5年掛けた時点を初診日として障害年金を受給する場合は、後述しますが障害認定日の属する月までの厚生年金被保険者期間を元にして障害厚生年金が算出されますが、これをそのまま適用すると厚生年金被保険者期間が78月として計算することになり、障害厚生年金額が極端に低くなってしまうことになります。

 

 そのため、障害厚生年金では被保険者期間が300月に満たないときは300月として計算することとしており、一定の障害年金額が保障されています。

 

  また、障害厚生年金額は平均標準報酬(月)額によって左右されることになるため、この点においてもいつの時点が初診日になるかによって障害厚生年金額が変動することになります。

障害年金の初診日とは②

2.加入要件

 

 障害年金を受給するためには、原則として国民年金被保険者や厚生年金被保険者の何れかの制度に加入していなければなりません。

 

 つまり、初診日において被保険者でなければ障害年金を受けることは出来ません。

 

 例えば、海外在住時は国民年金は任意加入となりますが、このとき任意加入がなければ国民年金被保険者ではありませんので加入要件は満たせないということになります。

 

 このように、初診日においては加入要件を満たすことは必須ではありますが、以下の2つの例外があります。

 

ア.20歳到達日前の期間

 

 厚生年金保険法は下限がありませんので、20歳到達日前であっても厚生年金適用事業所に勤めた場合は厚生年金被保険者となることは可能ですが、国民年金保険法においては国民年金被保険者となるのは20歳到達日以後となっています。

 

 そのため、20歳到達日前に厚生年金被保険者でない場合は加入要件を満たせないということになりますが、制度的な不備により障害年金の請求権自体を奪うことは相当ではないため、この場合に加入要件は問わないということになっています。

 

 この内容による障害年金を20歳前障害年金と呼んでいますが、この給付は保険料拠出を伴わない給付であり、かつ、税金が財源となるため一定の所得制限が設けられています。

 

イ.被保険者であったもので国内在住の60歳以上65歳未満の期間

 

 厚生年金保険の上限は70歳ですので、60歳から65歳までの期間も加入は可能となっていますが、国民年金の強制加入可能期間は60歳までであり、任意加入を除いてこの期間に加入することは出来ません。

  

 しかし、国民年金法による老齢基礎年金の支給開始年齢は老齢基礎年金の繰上げがなければ65歳からとなっており、厚生年金保険法との差異があることからこの期間についても加入要件は問わないとされています。

障害年金の初診日とは①

 障害年金を受給するための重要な考え方の一つに初診日というものがあります。

 

 初診日とは障害年金を請求する傷病により初めて医療機関を受診した日を指します。

 

 この初診日という考え方は、主として次の3つの点において重要な考え方になります。

 

1.対象制度

 

 障害年金は、現在では国民年金法による給付と厚生年金保険法による給付とに分かれますが、障害年金を請求するにあたっていずれの制度が適用されるかは初診日においてどちらの制度に加入していたかによって異なります。

 

 初診日時点で国民年金被保険者であれば国民年金法が適用されますし、厚生年金被保険者であれば厚生年金保険法が適用されます。

 

 国民年金被保険者であれば障害基礎年金となりますし、厚生年金被保者「であれば障害厚生年金の他、障害基礎年金を同時に受けられることもありますし、制度独自の障害手当金もあります。

 

 初診日にどの制度に加入していたかによって対象となる法律が異なり、給付内容も大きく異なるということを示しています。

 

※被用者年金一元化前は共済組合員の場合は共済組合制度による障害共済年金がありましたが、現在は厚生年金保険法による障害厚生年金の対象となります。

障害年金の目的とは?

 日本国憲法第25条第2項では「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定されています。

 

 日本国憲法は国が定める最高法規であり、日本国憲法の目的に従って法令は制定されています。

 

 国民年金法、厚生年金保険法等の年金関連法令も、上記日本国憲法第25条第2項における目的の遂行のための法令による具体化であるということになります。

 

 傷病による一定の制限を余儀なくされるということは、所得の稼得能力も制限されることを意味します。

 

 このような障害による一定の制限を余儀なくされた方に対し、法令によってその所得を保障し、もって生活保障・福祉向上を図るための制度として存在するのが障害年金の趣旨ということになります。

  

 社会福祉、社会保障、公衆衛生の向上および増進となる法令による保障となる制度は他にも存在しますが、障害年金はそれら他の制度とともにお互いを補完し合う関係であり、重要な制度ということが出来ます。

高年齢雇用継続基本給付金との関係高年齢雇用継続基本給付金との関係

 現在は、まだ60歳定年が主流であるため、60歳以降に再雇用として会社に継続して雇用されることが一般的であるといえますが、この再雇用時に60歳到達時賃金と比べて低額化することもまた一般的であるといえます。

 

 このため、雇用保険においては、60歳以後の賃金が60歳到達時の賃金と比べて75%未満となった場合には高年齢雇用継続基本給付金を支給するものとされています。

 

 但し、この高年齢雇用継続基本給付金は、雇用保険の被保険者期間が5年以上あり、60歳到達以後も継続して雇用保険に加入していることが要件であるため、全ての雇用保険被保険者が対象となるわけではありません。

 

※年度によって60歳到達時の賃金月額に上限が設定されているため、上記の要件を満たしても対象とならないことがあります

 

 これらの条件を満たすと高年齢雇用継続基本給付金が支給されることになるわけですが、この方が特別支給の老齢厚生年金を同時に受給する場合は、高年齢雇用継続基本給付金の支給割合に応じて特別支給の老齢厚生年金も一定割合で支給停止されることになります。

 

具体的には、60歳以後の賃金が60歳到達時点の賃金額の61%以下に低下した場合には、高年齢雇用継続基本給付金の支給率が15%となり、特別支給の老齢厚生年金の支給停止率が標準報酬月額に対して6%となり、以下高年齢雇用継続基本給付金の支給率に応じて支給停止率が決定されます。

 

 つまり、高年齢雇用継続基本給付金を受給できる場合でも、特別支給の老齢厚生年金が支給される場合は同時にこちらも一定額が支給停止されるため、結果的に高年齢雇用継続基本給付金が全額支給されることにはならないということになります。

事後清算とは?

 雇用保険との調整については通常の扱いをしている場合に不合理なケースが生じることがあります。

 

 例えば、定年や自己都合退職による給付制限期間については、基本手当との関係では基本手当を受けた期間とみなされるため、この期間については基本手当と特別支給の老齢厚生年金のいずれとも受けることは出来ません。

 

 しかし、これでは給付制限期間がない方との給付と比して、給付制限がない方については基本手当を受給できますが、給付制限期間がある方については基本手当を受けられない期間が生じる点で不合理となります。

 

 そのため、基本手当を受けられていない期間が生じている方については、基本手当の受給が終了した時点で基本手当を受けられなかった期間に応じて年金として支給されることになります。

 

 これを事後清算といい、上記の給付制限期間や実際に基本手当を受けていなかった期間についてはこれにより清算が行われることになります。

 

 なお、事後清算額については以下の式で求められます。

 

【支給停止解除月数=年金停止月数-基本手当の支給対象日数/30】

  

 但し、上記の式において、基本手当の支給対象日数/30の数値が1未満の場合は切り上げが行われるため、結果として事後清算が行われないことがある点には注意を要することになります。

基本手当受給による支給停止期間の考え方②

2.待期期間と給付制限期間について

 

 ハローワークに求職の申込みをしてから7日間は待期期間が設定され、この期間について特別支給の老齢厚生年金との関係においては基本手当を受けた期間とみなすとされ、この期間については基本手当、特別支給の老齢厚生年金のいずれも受けることが出来ない期間となります。

 

 また、退職理由が定年や自己都合退職である場合は基本手当の受給は可能ですが給付制限期間が3ヶ月間設けられ、この期間についても基本手当を受けた期間とみなされることになり、基本手当・特別支給の老齢厚生年金ともに受けることが出来ません。

 

 特に給付制限期間が3ヶ月間設けられることになる方は、相当期間において給付を受けることが出来ない期間が生じることになります。

  

 そのため、一般的には特別支給の老齢厚生年金より基本手当の方が高額であればそちらを選択することが通常ですが、支給制限が設けられる方については年金給付を優先し、基本手当を受給しないという考え方も出来ますのでケースに応じた考え方をすることが重要であるといえます。

基本手当受給による支給停止期間の考え方①

 雇用保険による基本手当を受給する場合には特別支給の老齢厚生年金を併給することが出来ないことは既に触れた通りですが、実際にどのように支給停止がなされるかは次のようになります。

 

1.雇用保険の受給期間と所定給付日数の考え方

 

 雇用保険の基本手当を受給できる期間は、原則として離職の日の翌日から起算して1年間と定められています。

 

 また、基本手当を受けられる期間はその離職理由に応じて所定給付日数という形で決定され、各人により基本手当を受けられる期間は異なっています。

 

 このため、受給期間と所定給付日数との関係で乖離が生じることになります。

 

 例えば、所定給付日数が90日の方は、離職の日の翌日から1年間であれば受給開始の時期が離職の翌日から3ヶ月程度後であっても、離職の状態であれば基本手当の受給は可能となっています。

 

 このことに関連して、特別支給の老齢厚生年金との関係では所定給付日数を受け終わっていない場合が問題となります。

 

 雇用保険の基本手当と特別支給の老齢厚生年金の調整は、所定給付日数が終了するか受給期間が満了するかまで続きます。

 

 これは上記のように離職の日の翌日から1年以内であれば基本手当を受給することは可能であることに起因します。

 

 つまり、一旦、所定給付日数を受けないでいた場合でも、離職の日の翌日から1年以内であれば基本手当を受給することが可能なため、所定給付日数を受け終わるまでは基本手当の調整が終了できないことを意味しています。

 

 このため、何らかの理由で基本手当を受けないことにしようとした場合でも、厚生年金被保険者として再就職する等でない限り、原則として離職の日の翌日から1年を経過するまでは基本手当との調整を免れることは出来ませんので注意が必要です。

  

 上記の理由により、自分で考えている以上に特別支給の老齢厚生年金の支給停止期間が長期化することがあり得るため、基本的には所定給付日数が終了するまで基本手当を受給することが重要であるといえます。

雇用保険の基本手当と在職支給停止

 雇用保険の被保険者である65歳未満の方が退職した場合には、その被保険者期間と退職理由に応じた日数分の基本手当を受給することが出来ます。

 

※一般的に失業手当といわれるハローワークで受ける手当のことを雇用保険法では基本手当といいます

 

※退職理由による区分とは、退職理由が主として会社に起因する特定受給資格者、特定理由離職者と、定年や自己都合退職である場合でその扱いが異なることになります

 

 但し、雇用保険による基本手当を受給する場合で、その間に受けられる特別支給の老齢厚生年金がある場合には、基本手当を受給する期間において特別支給の老齢厚生年金が全額支給停止となります。

 

 基本手当を受給するか特別支給の老齢厚生年金を受給するかの選択は、ハローワーク(公共職業安定所)に出向いて基本手当の受給契機である求職の申込みを行うかどうかで決まることになります。

 

 言い換えると、雇用保険の基本手当を受給しないことを選択する場合には、ハローワークで求職の申込みを行わないということになります。

 

 現在の特別支給の老齢厚生年金は、生年月日に応じて支給開始年齢が引き上げられているため、平成29年に受給権が発生する方の生年月日においては定額部分が発生せず報酬比例部分のみの受給となることが一般的ですが、長期加入者特例や障害者特例、特定警察職員や特定消防職員、女性で定額部分が発生する方など場合によっては年金額が高額となるケースもあります。

 

 そのため、いずれの給付を受給するかについては、事前に退職時の年金額を年金事務所等で確認した後にハローワークで基本手当額と照らし合わせて決定することが重要であるといえます。

 

 なお、ハローワークで求職の申込みを行った後に基本手当の受給を停止して特別支給の老齢厚生年金再開をすることは原則出来ませんが、今後基本手当の受給を希望せず基本手当の受給をした場合には返納するという申出をすることで支給停止を解除することも場合によっては可能とはなっています。

 

 しかし、上記の手続は例外措置であり、基本的にいずれの給付を受けるかを考慮した後に手続きをされることが望ましいといえます。

退職と在職支給停止

 在職支給停止制度は厚生年金被保険者であることを前提とする制度のため、(特別支給の)老齢厚生年金を在職支給停止されている方が退職した場合には在職支給停止は解除されます。

 

 また、退職すると厚生年金被保険者資格を喪失しますが、厚生年金被保険者資格を喪失してから1ヶ月が経過した場合は、1ヶ月退職時点までの厚生年金被保険者期間に応じて(特別支給の)老齢厚生年金額が改定されます。

 

※退職時点で1ヶ月が経たないうちに再就職した場合は改定が行われません

 

 更に、被用者年金一元化以降は年金額の改定が退職月の翌月から行われることになっています。

 

 被用者年金一元化以前は資格喪失日の翌月から年金額の改定が行われることになっていましたが、この場合の月末退職時は資格喪失日が退職日の翌日となっている関係上、退職日の属する月の翌月が資格喪失日となるため、年金額の改定が退職日の翌々月となっていました。

 

 

 これに対し被用者年金一元化以降は退職日の属する月の翌月に年金額を改定することとされましたので、月末退職であっても退職日の翌月から改定された年金額を受け取ることが出来るようになっています。

複数の厚生年金被保険者期間がある在職支給停止

 被用者年金一元化が行われて以降は共済組合員も厚生年金被保険者となることになりましたが、現在の厚生年金被保険者は各所属する機関ごとに第1号から第4号被保険者に分かれています。

 

 こうした複数の厚生年金被保険者期間を有している方については、その管轄する機関ごとに在職支給停止を行なうことになるのですが、そのための支給調整額を各機関ごとに算出することとすると各機関ごとの調整が少なからず発生することになるため非常に煩雑となり事務作業に支障をきたすことになります。

  

 そのため、支給調整額の算出にあたっては各機関ごとに算出するのではなく、最初に支給調整額を算出すべき機関が全体の支給調整額を算出し、算出された支給調整額を元にし、各機関において支給される年金額に応じて支給停止額を按分して各機関ごとの支給停止額を決定する流れになります。

厚生年金基金がある場合の在職支給停止について

 現在までに厚生年金基金に加入されたことがある方については、代行返上や解散により年金原資が国へ移換され、基金が国に代わって支給する代行部分である基本年金部分がない方を除き、国が支給する部分と基金が国に代わって支給する部分に分かれています。

 

※基金が上乗せする独自部分については在職支給停止の考え方は適用されません

 

 ここで基金により支給される代行部分である基本年金部分とは、本来支給する国の代わりに基金が支給する年金ですので、この部分については在職支給停止の考え方が適用されることになります。

 

 但し、この在職支給停止額を国と各基金ごとに算出することになると事務が煩雑となってしまうため、在職支給停止の支給調整額を算出するにあたっては、基金が支給する基本年金部分を含めて基本年金月額を決定した上で支給調整額が決定されます。

 

 上記の支給調整額が決定されたら、年金額の調整は国の支給部分から行われることになっており、国の支給部分のみで調整可能である場合には基金の支給部分の調整はありませんが、国の支給部分だけでは調整できないときは基金の支給部分を含めて調整が行われます。

 

 

 例えば、国から5万円、基金から3万円が支給される場合で支給調整額が5万円であれば全て国の部分で調整が行われますが、支給調整額が6万円の場合は国の支給部分が全額支給停止で更に基金の支給部分から1万円が支給停止されることになります。

在職支給停止における支給調整額の算出について④

2.70歳以上の在職支給停止について

 

 厚生年金保険については70歳までしか加入することが出来ないため、70歳以降に厚生年金適用事業所に雇用され適用要件に該当する場合でも、高齢任意加入の対象者でない場合には厚生年金被保険者となることは出来ません。

 

 しかし、平成27年10月以降は、70歳以上で厚生年金適用事業所に雇用され厚生年金保険の適用要件に該当する方については、厚生年金保険に加入することがなくても在職支給停止の対象となるように制度改正が行われています。

 

 上記の対象者となる場合には、65歳以上の在職支給停止の仕組みが適用されることになるため注意が必要となりますが、在職支給停止される場合であっても厚生年金被保険者ではありませんので年金額は増額しないことになります。

  

 なお、厚生年金被保険者である方が70歳に到達した以後も勤務される場合は、70歳到達時点で厚生年金被保険者資格の喪失と年金額の改定が行われることになります。

在職支給停止における支給調整額の算出について③

【65歳以上の在職支給停止】

 

1.70歳未満の在職支給停止について

 

 65歳未満の在職支給停止については、特別支給の老齢厚生年金に定額部分を加算される方の場合はその定額部分を含めて支給調整額が算出されるのに対し、65歳以降の老齢年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金に分かれて支給され、老齢基礎年金は国民年金法による給付のため、在職支給停止の支給調整額の算出の基礎とならない点で定額部分の扱いと大きく異なります。

 

 また、老齢厚生年金に付加して支給されることがある経過的加算額についても老齢基礎年金に準ずる給付であるという理由からこの部分についても支給調整額の算出の基礎とはなりませんし、加給年金が付加される場合も本人の被保険者期間による老齢厚生年金額とは異なるという位置付けから同様に支給調整額の算出の基礎とはなりません。

 

※加給年金については、老齢厚生年金額が在職支給停止により全額支給停止となる場合には支給されないことになり、その意味では老齢厚生年金の給付と連動しているといえます

 

 言い換えると、65歳以降の在職支給停止を算出する基準は本人の老齢厚生年金部分のみであり、報酬比例部分のみが在職支給停止にかかることになります。

 

 なお、65歳以上の在職支給停止の基準額は46万円となりますが、65歳未満の在職支給停止額の算出式とは異なり次のようになります。

 

※在職支給停止額の基準額については、現在は65歳未満では28万円、65歳以上は46万円となっていますが、この額は一定ではなく毎年見直され変動する可能性があるため注意が必要です

 

 【基本年金月額-(総報酬月額相当額+基本年金月額-47万円)×1/2】

 

 上記の算出式を一言でいえば総報酬月額相当額と基本年金月額を合算して47万円を引いた額の1/2が支給停止の対象となることになります。

在職支給停止による支給調整額の算出について②

3.基本年金月額が28万円を超え、かつ、総報酬月額相当額が47万円以下の場合

 

 現実的な話としてですが、基本年金月額が28万円を超えるのは年額に換算すると336万円以上の年金額を受けているケースということであり、報酬比例部分の現在の年金額から考えるとおよそ現実的な数字ではありませんが、このケースに該当する場合の算出式は以下のようになります。

 

 【基本年金月額-総報酬月額相当額×1/2】

 

4.基本年金月額が28万円を超え、かつ、総報酬月額相当額が47万円を超える場合

 

 このケースは基本年金月額及び総報酬月額相当額ともに相当額を受けているケースであり、上記と同様に現実的な数字ではありませんが、このケースに該当する場合の算出式は以下のようになります。

 

 【基本年金月額-(47万円×1/2+総報酬月額相当額-47万円)】

 

 65歳前の在職支給停止による支給調整額の算出式については以上となりますが、実際に使用されうるのは1の算出式か2の算出式が殆どであり、3・4の算出式については現在では殆ど使用されることはないといえます。

在職支給停止による支給調整額の算出について①

 在職支給停止による調整とは、既に述べたように65歳未満と65歳以上では在職支給停止の基準額が異なるように、支給調整額を算出する式も異なっており次のようになります。

 

【65歳未満の在職支給停止】

 

1.総報酬月額相当額が47万円以下で、かつ、基本年金月額が28万円以下の場合

 

①総報酬月額相当額+基本年金月額=28万円以下の場合

 

 この場合は支給調整対象とはならず、特別支給の老齢厚生年金は全額支給となります。

 

②総報酬月額相当額+基本年金月額=28万円を超える場合

 

 この場合には以下の算出式により支給調整額を算出します。

 

 【基本年金月額-(総報酬月額相当額+基本年金月額-28万円)×1/2】

 

 通常、在職支給停止の対象となる方はこのケースに該当することが多く、総報酬月額相当額と基本年金月額の合算額から28万円を差し引いた額の1/2が支給停止額となります。

 

 なお、この算出式で算出されるのは月額の年金支給停止額ですので、年間で停止される支給停止額はこの算出額の12倍ということになります。

 

2.総報酬月額相当額が47万円を超え、かつ、基本年金月額が28万円以下の場合

 

 この場合には基準額が28万円を超えるのが明らかであり、以下の計算式で算出されることになります。

 

 【基本年金月額-(47万円+基本年金月額-28万円)×1/2

        -(総報酬月額相当額-47万円)】

 

 会社役員等の高額報酬を受けている方がこのケースに該当することが多く、この場合には現実的には全額支給停止となるケースが多くなります。

在職支給停止の対象となる額とは?

 在職支給停止は厚生年金保険法による制度であるため、支給停止となる対象額については老齢年金の全ての額について在職支給停止の対象となるわけではありません。

 

 例えば、特別支給の老齢厚生年金については厚生年金保険法による支給であるため、報酬比例部分と定額部分について両方とも在職支給停止の対象となるのに対し、老齢基礎年金と老齢厚生年金については老齢基礎年金が国民年金法の、老齢厚生年金が厚生年金保険法による支給となり、老齢基礎年金については在職支給停止の対象とはならず全額支給対象になります。

 

 但し、厚生年金保険法における老齢厚生年金についても、実質は老齢基礎年金の性質を持つ経過的加算(差額加算)については在職支給停止の対象とはなりません。

 

 また、特別支給の老齢厚生年金や老齢厚生年金の加算されることがある加給年金も在職支給停止の対象とはならず計算から除外されます。

  

 なお、在職支給停止は厚生年金基金部分がある場合にはその部分も含めて対象となりますが、厚生年金基金部分がどのように扱われるかは基金によって異なることがあり、一律に在職支給停止の対象となるとは限りませんので注意が必要となります。

複数の厚生年金被保険者期間がある在職支給停止

 平成27年10月より共済組合についても厚生年金に一元化され統合されていますが、制度は統一されたとはいえ各共済組合は一元化後も存続し各種の事務を取り扱っています。

 

 厚生年金被保険者はどの機関にいたかによって第1号から第4号被保険者までのいずれかに分かれることになりますが、これが複数ある場合には、それぞれの機関により老齢年金が支給されることになるため、通常であれば各機関ごとに在職支給停止額を計算しなければならないことになります。

 

 しかし、それでは制度ごとの調整をするのが難しくなりますので、この場合にはいったん複数の機関ごとの期間を合算した年金基本月額を計算した上で総報酬月額相当額と合わせて全体の在職支給停止額を求め、その求めた在職支給停止額をそれぞれの機関ごとの年金額に応じて按分した額を在職支給停止額とすることとしています。

 

 上記の子とは在職支給停止にかかわらず一元化後に事務を円滑に進める仕組みを構築しているといえます。

 

 なお、一元化により在職支給停止額が大幅に変動することになる方については、激変緩和措置という支給停止額を一定額に留める配慮がなされています。